ことばの話バックナンバー

アクセスカウンタ

help リーダーに追加 RSS 雪女 パート IV

<<   作成日時 : 2007/11/18 12:06   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

ことばの話>その他>フィクション>創作民話

       雪女 パート IV

            − 雪女の逆襲 −
                               
                                    岡安裕司


 小雪には三人の姉と、妹がひとりいた。
妹の名前は大雪といった。小雪と一番の仲良しだった妹の雪女は
悲しい知らせを聞いて誰よりも悲しみ、ついに仇(かたき)を討とうと心に誓った。

 山姥は雪の精の雪女と違い、鬼である。
「山姥をやっつけるですって?」姉たちはびっくりした。

「そうよ。山姥だろうとなんだろうと冷たい息をおもいっきり吹きかけて
凍らせちゃえば・・」

「だめよきっと」大雪の作戦を聞いて一番上の姉が大福を食べながら言った。
「山姥の心はすごく冷たいから凍りゃしないわよ。それに山でも動かしちゃう
くらいの馬鹿力女なんだから長槍で立ち向かうのが一番だわね。
宝蔵院流の十文字かま槍が最強よ。念のためにキングコブラの毒も
塗っといたほうがいいわね」
「そうよそうよ」と二番目と三番目の姉が言った。

「わかったわ、それじゃ宝蔵院流十文字かま槍の道場に通って稽古して
槍先にキングコブラの毒を塗って山姥をやっつけることにするわ」

「でもさあ」と二番目の姉がおせんべを齧りながら言った。「ついでにプロレスも
習っといた方が絶対いいわよ」
「そうねそうね」と一番目と三番目の姉が言った。
「わかったわ、全日本女子プロレス連盟でプロレスの練習もすることにするわ」

「でもさあ」と三番目の姉がお茶を啜りながら言った。「やっぱり仇討ちには
刀が一番頼りになるわよ。絶対、剣の修行もしといたほうがいいわね」
「そうねそうね」と一番目と二番目の姉が言った。
「わかったわ、柳生新陰流の道場に通って剣の修行もすることにするわ」
「だめよあそこ、月謝高いから。神田お玉が池の千葉道場にしなさいよ」
「わかったわ、神田お玉が池の千葉道場に通うことにするわ」

 こうして小雪の妹の雪女は三年の間宝蔵院流と全日本女子プロレス連盟と
神田お玉が池の千葉道場に通って食事と風呂と睡眠の時間を除いて一心不乱に
修行に励み、断熱材入りの着物を着てインドに行くと、キングコブラの毒も
採ってきた。



 こうして準備が整い、いよいよ出立の朝、姉たちが言った。
「じゃあ頑張ってね。きび団子作るのめんどくさいから、お腹すいたら
この雪女製菓のぽんぽこ団子を食べなさい」
「ありがとう」

 ぽんぽこ団子というのは大福を買うとおまけに付いてくる一番安いお菓子である。

 勇んで出掛けた雪女が暫らくゆくとどこからか猿が出てきて言った。
「ゆ〜き女さん雪女さんお腰につけたきび団子ひとつわたしにくださいな」
「あ〜げましょうあげましょう、これから鬼ばば征伐についてくるならあげましょう。
でもね、これきび団子じゃなくてぽんぽこ団子なのよ」
「さいなら」
猿はさっさとどこかへ行ってしまった。

 また暫らくゆくと今度は雉が出てきて言った。
「ゆ〜き女さん雪女さんお腰につけたきび団子ひとつわたしにくださいな」
「あ〜げましょうあげましょう、これから鬼ばば征伐についてくるならあげましょう。
でもね、これきび団子じゃなくてぽんぽこ団子なのよ」
「さいなら」
雉もさっさとどこかへ行ってしまった。

 雪女がまた暫らくゆくと今度は犬が出てきて言った。
「ここ掘れわんわん、ここ掘れわんわん」
「なんか言うこと違ってない?」
「すいません、番組間違えました」
犬もどこかへ行ってしまった。


 雪女は結局ただひとり山姥の住む家の前に着くと草陰に身を隠して様子を窺った。

 するとまもなく家の戸が開き、伊藤四郎みたいな顔した女が出てきた。
(間違いない、山姥だわ)
雪女はすぐさま草陰から飛び出し、先にキングコブラの毒を塗った長槍を構えて言った。

「やあやあ、そこなる山姥、我こそはパートIIIでうぬがため溶かされちゃった
小雪が妹、大雪だわよ。いざ姉が仇き、覚悟せよ!」

 この時代考証中途半端なことばを聞くと山姥は目をぱかっと見開いて
いきなり機関車のような勢いで攻めかかり、慌てた雪女はおもわず
ふゅーっと息を吹きかけた。

 するとその途端、山姥は「にん!」と言ってばったり地面に倒れてしまった。
「ウソー・・きっとほんとは死んでないのよ」
雪女は仰向けに倒れている山姥の脇腹に槍をぶちゅっと突き刺そうとしたが、
体がカチンコチンで歯が立たない。

 そこで刀を抜いて切りつけるとぽきんと折れてしまった。
プロレス技も試してみたが関節がかちかちでかけられない。
やはり山姥は完全に凍り付いていたのだった。

「なんなのよ!凍らせちゃえばそれで済んだんじゃない。なんのために
十文字かま槍とプロレスと剣の修行をしなくちゃいけなかったわけ?
この三年の月日はなんなのよ。あたしの青春を返してよ。返してよ〜!」

 雪女の言葉が近くの山々にこだました。


 仇は取ったものの半分がっくりして雪女が姉たちのもとへ戻ると
姉たちが土間の前まで出迎えた。
「あら早かったのね。で、どうだった?うまくいった?」
「仇は取ったわ」
「そうそりゃ良かったじゃないの。やっぱしキングコブラの毒を塗った長槍が
役に立ったでしょ?」一番上の姉が言った。
「全然役に立たなかったわよ」

「じゃあやっぱしプロレスが役に立ったでしょ?」二番目の姉が言った。
「全然役に立たなかったわよ」

「それじゃやっぱし刀が役に立ったのね?」三番目の姉が言った。
「全然役に立たなかったわよ」

「じゃあどうやってやっつけたの?」姉たちが言った。
「息を吹きかけたらすぐ凍っちゃたわよ」
「あらそうなの?やっぱりそうよね、なんてったって雪女の武器は
凍らせることですもんね。良かったじゃん」一番目の姉がそう言うと
二番目と三番目の姉が言った。
「そうよそうよ。さあお茶にしましょうか」

 わなわなと震えている大雪に、一番上の姉が大福を食べながら言った。
「そうそうあんたが出掛けてる間にどっかの仙人で珍言斎とかいうおじさんが
たまたまやって来てさあ、雪女復活法ってのを教えてくれたのよ。言われた通り
ハシバミの実を潰して火で焙って瞬間冷凍してから粉にして
小雪ちゃんの髪が付いた櫛と一緒に焼いたら小雪ちゃん生き返っちゃったのよ」

「今あんたの成功祈願に雪女神社に行って、ついでに近くの雪女温泉で療養してるん
だけどさ」二番目の姉がおせんべを齧じりながら言った。「大雪ちゃんによろしくって
言ってたわ」

「べつに仇討つ必要もなかったのよね」「そうねそうね」姉たちがお茶を啜りながら言った。


 この無責任な三人の姉たちがぶっちぎれた大雪にぼこぼこにされたことは
言うまでもない。姉たちのアドバイスはこうして見事に実を結んだのであった、
とさ。
                                 (おわり)

あとがき
予定していた創作民話が間に合わず、予定変更で雪女の第四話をお送りしました。
ジャンル的にはこれも、ちょっと変わっていますが(シリーズ初の)
創作民話です。

======================================
 ことばのコラム  No.5

 おたんこなす

秋に因んでおたんこなすの語源、と言えばぴんと来るでしょう、おたんこなすは
秋になるととても美味しくなる茄子の一種なのです。

といっても品種のひとつという意味ではありません。有力説によれば
十分に育たなかった出来損ないの茄子のことで、形が丸っこいのでお団子茄子、
それが訛っておたんこなすになったといいます。

他にも「おたん」は「お短」(=短かい)――この場合劣っているの意――で
「こなす」は「小っこい茄子」、などの説がありますが、
茄子の一種であることは間違えないようです。

======================================


**
バックナンバー・ピックアップ
              **

− 雪女シリーズ:
・ 雪女、雪女 パート II、パート III
http://kotoba-back.at.webry.info/200706/article_45.html
http://kotoba-back.at.webry.info/200706/article_47.html
http://kotoba-back.at.webry.info/200710/article_1.html
− 時節に因んだ記事:
・ さんまの話
http://kotoba-back.at.webry.info/200706/article_10.html
− 最近の記事:
・ 白馬の王子と白羽の矢
http://kotoba-back.at.webry.info/200710/article_2.html
・ 巫女と卑弥呼と梓弓
http://kotoba-back.at.webry.info/200709/article_2.html


ご意見ご感想など遠慮なくお便りください。出来る限り御返事します。でも
非常識なメールは返事致しません。返信メールではこちらに届きません。
下記発行者アドレス宛にお願いします。
meru-kotoba@kph.biglobe.ne.jp


【発行者プロフィール】
岡安裕司 1900年代後半東京原宿の竹下通り生まれ。血液型不明。
東京農工大卒業後、セールス・エンジニアを経て翻訳家に転向、以後技術文書、
文芸作品の翻訳に従事するフリーランサー(正しくはフリー・ランス、私訳:
 風来坊)。
訳書に「フランク・ロイド・ライト 建築家達への手紙」(1)(丸善)、
「遠い国の犯罪」「結晶する魂」(以上早川書房)など。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------
【発行】岡安裕司 meru-kotoba@kph.biglobe.ne.jp
【登録・解除】 http://www.mag2.com/m/0000158621.html
----------------------------------------------------------------------------------------------------------

設定テーマ

関連テーマ 一覧

月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
女子トイレ事件簿
女子トイレ事件簿 ...続きを見る

2007/11/18 12:44

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文