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<<   作成日時 : 2007/10/14 08:30   >>

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       雪女 パート III


    − 根性の入った雪女の巻 −
                               
                                    岡安裕司

 ある所にごく普通の雪女がいた。

 ある年のある夜ある山で、定めに従がい凍らせようとした若者の姿に
胸がきゅんとなってしまった雪女は、このことをだれにも告げぬよう誓わせると
命を奪うことなく雪の中へと去った。

 そして次の冬、ある雪の降る夜に若者の家を訪ねた。

(ふふふ、ここまでは昔っからの筋書き通り。あとはなんかかんかここに
居着いちゃえばいいんだわ。あたし器量の方は十人並みの雪女だけど、
いっしょう懸命尽くせばきっと大丈夫。十人並みっていったって黒澤明の「夢」
に出てくるあの雪女になんかは全然負けないわよ。
岸恵子や村松映子には敵わないけど、断然あたしの方が若いんだし・・・

(この人のために絶対いっしょう懸命尽くしちゃうんだもん。きっと心が通じて
そのうちきっと「ねえ君」なんて言って突然ぎゅっなんて抱き締められて、
まあ!いけませんおよしになって、なんつって・・そんでもってまた、ぎゅっ、
ああ・・だめえ!・・・そんで晴れて結ばれて・・・、ううん、そうなる前に
できちゃった結婚に――って、やだああたしったら
もう、恥ずかしい!」

「なにひとりで騒いでるだ?」若者が戸口から顔を出していた。
「えっ・・いえ別にその・・寒さでかじかんでいて・・体操を」
「そんなら早う中へ入るとええ、遠慮はいらねえだ」
「ありがとう」

 礼を言って中に入った雪女は、家の中の光景を見てぎょっとして
雪女のくせに凍り付いた。

 囲炉裏の向こうに伊藤四朗みたいな顔した女がどっかり座っている。
「なに?だれ?この人」
「おらの嫁だべさ」
(嫁・・が、いたの・・・)

 若者は桶に湯を汲んできて自ら雪女の足を洗ってやった。
「名はなんというだ?」
「小雪といいます」

 女房はいそいそと雪女の世話をする若者――亭主――を見て焼餅を焼く一方、
雪女の様子を怪しんだ。

(小雪だって?ひょっとしてこいつ雪女でねえか?)
動物的勘で半ば正体を見抜いて言った。
「おまえさん、こん人は寒いとこを歩いてきなさったんじゃろ。足だけじゃなく
温ったかい風呂に入れておやりよ」
「うん、そうじゃな。まだそれほど冷めておらんじゃろ。
すぐ沸かし直すとするべえ」


 雪女は女房に案内されて狭い脱衣場に行くと帯を解き着物を脱いだ。
映像で見せられないのが残念!本邦初、ヌードとなった雪女は風呂場に入り、
湯気を立てている風呂桶を覗き込むとふーっとしばらく息を吹き掛け
ぬるま湯にして体を流し、湯船をまたいで、ゆっくりと湯につかった。

 そしてお気に入りの赤い櫛で髪を梳かしながら考えた。
(かみさんがいるなんて、そんなのマニュアルに書いてなかったじゃない。
でもしょうがないわ、こうなったらなんとかしなくっちゃ。
なるべく穏便に済ませたいけど、いざとなったら凍え死にさせちゃえばいいわよね。
普通の雪女としてはそのくらいのことしたって殺人罪にはならないもーん。

(でもなあに?伊藤四朗みたいな顔したあの女!あれじゃあの人が
可哀そうじゃない!やっぱあんなのはふーっと息を吹き掛けて
さっさとこの世から抹殺しちゃえば・・・)

 と、そこへいきなり戸口から女房が飛び込んできて風呂桶の蓋をつかみ、ごつんと
雪女の頭から被せて、表で火を焚いている亭主に向かって言った。

「まるでまだ水だよ!おまえさん。もっとじゃんじゃん沸かしておくれ!」

 雪女はどでかいこぶを作りながらも蓋をどかそうと抵抗したが、女房は
米俵で片手お手玉するぐらい朝飯前の怪力女なのであった。

 雪女はなおも蓋を除けようと必死にもがいた。
「うりゃー! どおりゃーー! うんごりゃーーー!」
でも、びくともしなかった。お湯を冷まそうと躍起になったが体が温まってきて
思うほど冷却力が発揮出来ない。

 やがて雪女は「うぎゃー」という叫び声を上げ、女房が蓋を開けてみると、
雪女の姿は融けてなくなり赤い櫛が一本、湯の表に浮かんでいた。

 それを見て女房はほくそ笑みながら小声で言った。
「ふん、ざまあみろっつうのよ、雪女め!この山姥さまから
亭主をかっぱらおうったってそうはいかないのさ」

 そして山姥は、声高らかに笑うのだった。


あとがき
 相手が悪かった雪女。ちょっと可哀想な気がします。おのれ伊藤四郎!じゃなくて
山姥!このままのさばらせてはおきません。パートIVを11月に
配信の予定です。
 ところで岸恵子は小泉八雲の「怪談」を原作にしたオムニバス映画(「怪談」)で
雪女を演じています。たぶん映像作品ではこの雪女が一番有名でしょう。
村松英子はミステリアスな美貌で一世を風靡した舞台出身の女優さんで、
雪女を演じたのはテレビドラマだと思います。
 ふたりともその当時三十二歳位ではないかと思います。
小雪ちゃんの推定年齢は十八です。

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 ことばのコラム  No.4

 耳ざわりがいい?

口当たりの良し悪しと同じような感覚で「耳ざわりがいい」とか「悪い」
とか言う人が増えているみたいです。
たぶん肌ざわり、手ざわりと混同しているのだと思います。

耳ざわりのさわりは「触り」ではなく「障り」と書き、支障(差し障り)がある
という意味です。

目障り、気に障る、癪に障る、癇に障るなどと同様、

耳障りな音、耳障りな言葉など、迷惑な気分や不愉快な心持ちを表現する時に
使うことばで、音・音楽などの聴覚的刺激だけでなく人間関係にも深く関わる、
やたらには使うべきでないことばです。

聴覚に関する口当たりがいい、肌触りがいいなどと同等の五感的表現としては
耳に心地よい、耳心地のいい、耳心地よい、聞き苦しい
などがあります。耳障りと同じく比喩的にも使われます。

すべてが使い方によっては人間関係に重大な影響を生じることばです。

もしも仮に、これで飽き足りない、つまり五感的表現に語彙不足を感じるのだと
しても、敢えて紛らわしい表現を用いることは避けるべきだと思います。

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バックナンバー・ピックアップ
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− 雪女シリーズ:
・ 雪女、雪女 パート II
http://kotoba-back.at.webry.info/200706/article_45.html
http://kotoba-back.at.webry.info/200706/article_47.html
− 時節に因んだ記事:
・ さんまの話
http://kotoba-back.at.webry.info/200706/article_10.html
− 前号の記事:
・ 巫女と卑弥呼と梓弓
http://kotoba-back.at.webry.info/200709/article_2.html


<2007 9/20発行>

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