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ことばの話>その他>フィクション>ショートショート 雪女 パート II − 続・自信過剰な雪女の場合 − 岡安裕司 孫作との結婚作戦に失敗した雪女は憂さ晴らしに狸や穴熊を痛め付けたり、 夏になると南極に行ってペンギンをいじめたりしていたが、やがて反省して 秋には帰国した。そしてその冬、またしてもいい男に出会って命を助け、 今度は「このことはだれにも話すな」と言って口止めした。 一年余り経った正月の二十日、雪女はその男の家の戸を叩いた。 (ふふふ、今度はマニュアル通りよ。やっぱりマニュアルは活用すべきよね。 特にこのマニュアルはとりわけ美女の雪女向きに書かれてるから、おととし ミス雪女グランプリに輝いたあたしにはぴったんこなのよ。 (今年はミスユニバース・妖怪美女コンテストに出て優勝するつもりだったけど 恋のためなら諦めちゃっても全然いいのよ、今のあたしに大切なのは女の名誉より、 女の幸せなんですもの。 (今度は絶対大丈夫、マニュアル通りしっかり一年経ってからやって来たんだし、 このあともマニュアル通りすぐプロポーズさせるようにしむけて 電撃結婚に持ち込んじゃえばもうこっちのもんっていうもんよ) 男が戸を開けて顔を出し、雪女は言った。 「雪の中、日が暮れて難儀しております。一晩泊めていただけませんか?」 「それはお困りじゃろう。さ、遠慮はいらねえ、中へお入りなせえ」 「ありがとう」 うきうきしながら土間に入った雪女は、しかし家の中の光景を見てぎょっとした。 囲炉裏の向こう側で若く綺麗な女がせっせと針仕事をしている。 「あれ?だれ?この人?」 「おらの嫁さんだべさ」 「嫁さん・・が、いたの?」 「ああ、この暮れに知り合ってなあ、すぐプロポーズして 正月に夫婦になったばかりなんじゃ。まあ、なんつうか電撃結婚というかその・・」 「おまえさん」女房が言った。「そんなおのろけはいいから早く上がって火に 当たらせておやんなさいな」 「ああそうじゃったな」 男が雪女の方を振り返ると、そこに雪女の姿はなかった。 雪女はすでに男の家を出てずんすん歩きだしていた。 「もうなんなのよあの男!なんですぐプロポーズして電撃結婚するわけ? もう、馬っ鹿じゃないの? よく考えてから行動しろっつうのよ。 「それになんなのよ、あのマニュアル。事前調査も必要だぐらい 注意書きに書いとけっつうのよ。もう、なんだっつうのよ。やってらんないわよ ・・ったく・・・」 雪女はぶつぶつ言いながらまた山へと戻っていった。 こうしてまたまた荒れ狂った雪女は夏には北極に行ってアザラシをいじめたりしていたが、 すぐにまた反省して秋には帰国し、その後節制に努めて翌年東欧にゆき、ミスユニバース・ 妖怪美女コンテストで念願のグランプリを獲得した。 さまざまな男どもにちやほやされることとなったが、フランケンシュタインは 完璧にアホだったし、ドラキュラは気取っていてなんか虫が好かないし、 狼男アメリカンはちょっと良かったけど満月の晩になると人格が変わるのじゃ やってられないし・・・、結局ひと月もしないうちに日本に舞い戻った。 そしてその冬、またまたいい男に出会って命を助けた。 雪女は今度こそ失敗はすまいと、子分の狸を呼んで、男が独身かどうか、周りに 女気がないかを調べさせた。 しばらくして戻った狸が言った。「ただいま戻りやした。旦那あ! あの男は・・」 「だれが旦那なのよ! あたしは雪女よ。女でしょ。言葉に気を付けなさいよね」 「へい、すいません。ではおかみさん! あの男」 「だれがおかみさんなのよ! あたしはミスユニバース・妖怪美女コンテスト グランプリよ。言葉に気を付けなさいよね」 「へい、すいません。それじゃあ親分! あの」 「はっ倒すわよ! だれが親分なのよ。あたしはミスユニバース・妖怪美女コンテスト グランプリよ」 「へい、すいません。じゃあ・・あねさん! あねさんオッケー? ではあねさん! あの男は間違いなく独りもんです。辺りに女っ気はありやせん。ただ・・」 「ただ?」 「へえ、まったく女を寄せ付けないというか、どうも女嫌いのようでして・・ でも旦那、いやあねさんの美貌なら話は違うかと・・」 「そうよね、そりゃそうよね、なんてったってミスユニバース・妖怪美女コンテスト グランプリですもの」 「へえ、背中にのぼりを立ててミスユニバース・妖怪美女コンテストグランプリって 書いて行けば・・」 「行くわけないでしょ、目立ってどうすんのよ」 「へい、ごもっともで」 というわけでともかくは安心した雪女だったが、念のためさらに詳しい調査を 言い付けて狸を先にやり、自分は旅姿に変身してあとから出かけていった。 男の家の近くまで来ると報告に戻ってきた狸に出会った。 「旦那あ! じゃなくて、あかみさん! じゃなくて、親分! じゃなくて、 ええと・・なんだっけ?」 「いいから早く要点を言いなさいってば」 「へえ、ご安心くだせえ、やっぱり女っ気全然まったくなし、結婚話もなし、 その点なんの問題もごぜえません。ご安心なすって」 「そう、よかったわ。これでもう成功間違いなしね。でもなんで あんなにいい男なのに女が寄り付かないのかしら? なんでそんなに女嫌いなの?」 「へえ、家の中を調べてみると八方手裏剣やら火薬玉やら縄梯子やらが天井裏に 隠してありやして」 「なにそれ?」 「へえ、調べてみるとやつはこの国の様子を探るために送り込まれた 隠密なんでござんして・・、 農夫に成りすましておりやすが実は・・、女忍者でした」 雪女はがっくり肩を落とし、再び山へと戻っていった。 (おわり) あとがき 初めは二話、三話として書いたものを二話としてひとつに編纂したので 少し長い話になりました。 美人だけど徹底的に男に縁のない雪女、作者はこのしょってる雪女の キャラクターが結構気に入っていまして、また登場させようかなと思って いるのですが、今のところ三話以降は別の雪女が主人公になりそうです。 どうかお楽しみに。 <2007 6/3発行> |
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2007/08/09 12:56 |
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