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<<   作成日時 : 2007/06/13 16:05   >>

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ことばの話>その他>フィクション>ショートショート

        雪女
    
     − 自信過剰な雪女の場合 −

                                     岡安裕司
  
 ある冬の日、山仕事に出かけた孫作は吹雪に遭い、近くの小屋に逃れて
一夜をそこで明かすことにした。囲炉裏に火を起こし、夕飯の代わりに
干した芋をかじると囲炉裏の端で眠った。

 夜も更けてから孫作は不思議な夢を見た。
夢の中で孫作は同じ小屋に同じ格好で横になっていた。小屋の戸が風のせいか
ひどくがたがた揺れだしたかと思うと、かってあったしんばり棒が外れて土間に転がり、
戸がすふっと開らくと、そこに白い着物を着た女がひとり、
吹雪で乱れた長い髪を顔にまとわりつかせて立っていた。

 女はすぐに戸口をくぐって土間を通り抜け、さらに近寄ると驚き慄のく孫作
に顔を近付けてしばらくじっと見つめたのち言った。
「本当は命をもらわなければならないのだよ、でもそなたは若く美くしく
殺すには忍びない。見逃してあげる。その代わり・・」
「・・・」
女は体を起こしてから言った。
「名はなんという?」
「ま、孫作というだ」
「この山の東の村のものか?」
孫作が頷づくと「朝にはこの雪も一旦止むので早く村に帰るがよい」
そう言い残して吹雪の中に消えた。


 孫作が目を覚ますと部屋の中がひどく寒く、囲炉裏に燃え残った薪をかざして
見ると、しんばり棒が転がっている。戸は閉まっているのに土間には沢山の雪が
舞い込んでいた。

 ひょっとして夢ではなかったのでは・・おらは本物の雪女に会ったのだろか。
そう思って背筋がぞくっとしたが、ともかく命は助けてくれたのだからと
半ば安心して棒をかい直すとまた眠りにつき、夜明けとともに山を降りた。


 やがてその冬も終わり、桜が散り、山吹の花も散って
青葉がみずみずしく茂り始めたある晩のこと、
孫作の家の戸をだれか叩くものがある。開けてみると、旅姿の
息を飲むほど美くしい女がひとり立っていた。
「道に迷って難儀しております。今宵ここに泊めてはくれませんか?」
美くしい声で女は言った。

 孫作は気付かなかったがもちろんそれはあの時の雪女である。
そしてもちろん雪女には下心があった。

(ふふふ、ここまでは昔っからの筋書き通り。美くしい若者に逢って好きになって
しまったら、命を助けて少し時が経ってから訪ねていって夫婦になるという寸法よ。
普通は助ける代わりにこのことはだれにも話すな、なーんて言って
口止めするのよね。もちろん話せば別れなけりゃならなくなるけど、
喋るなって言われれば余計喋りたくなるのが人情ってもんだわよ。
だから口止めなんてしなかったっていうわけ。

(そこが普通の雪女と違ってあたしの頭のいいとこなのよね。
ねんごろになってからそれとなく、喋ったらまずいことになるってことを吹き込めば
それでいいのよ。

(とにかく一日二日一緒にいれば去年のミス雪女グランプリに選ばれたあたしですもの、
ちょいと色目を使えばどんな男もイチコロだわよ。
雪女は子供が出来やすい体質(たち)だからすぐに子供が出来ちゃって、
出来ちゃった結婚に持ち込んじゃえばもうこっちのもんっていうもんよ)

 親切な孫作は女をすぐに中へ入れてやり、囲炉裏の傍に座らせた。
雪女はここまでとんとん拍子にいったので安心した途端お腹が減り
「なにか食べさせてくれませんか?」と図々しく頼んだ。
「残り物しかないだが」と言って孫作は芋の入った食べ残りの雑炊を温ため、
鍋を囲炉裏の鉤にかけると椀によそってやった。
「ありがとう」

 やがてスルスルと椀の雑炊をほぼ平らげた雪女に向かって孫作が言った。
「囲炉裏の端に座っているおめえさんを見ていると、なんだかこん冬あったことが
思い出されるだ。吹雪の日に山の小屋に逃げ込んで眠っていると・・」

「えっ? うっ」 雪女は楽しみに取っておいた芋を喉に詰まらせた。

「あれは夢なんかじゃねえ・・、雪女が現われて囲炉裏の傍でおらを
じっと見ていたが、やがて見逃してやると言って出ていっただ」

 雪女はポトリ、と椀を床に落とし、
やっと芋を飲み込むと立ち上がって言った。
「ご馳走さん!あたし帰らなくっちゃ」

「えっ?あれ?・・草履履いて・・まずかったの? 雑炊」

雪女はまごつく孫作には目もくれず、ぷいと戸口を出てピシャリ戸を閉めると
振り向きもせずにずんずん歩きだした。

「もう、なんなのよあの男。なんでいきなり喋るわけ? もう、馬っ鹿じゃないの?
あたしは芋雑炊食いに来たんじゃないっつうのよ。もう、なんだっつうのよ。
やってらんないわよ・・・・ったく・・・」

 雪女はぶつぶつ言いながら山へと戻っていった。
                                        (おわり)

あとがき
 は〜るよ来い、なんて歌は流行らないこの冬でした。雪女の出番もまず
なかったでしょう。凍らされては困るのであまり出てこないほうがいいのですが、
心を入れ替えて「結婚してえ!」なんて言う雪女ならウェルカムなのです。

<2007 5/4発行>

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マイホーム購入で失敗しないために
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